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REPORT-レポート
5/16 子どもの読書応援トークイベント2026 さくまゆみこ講演会〈絵本で世界をひとめぐり〉
絵本で世界をひとめぐり
今年度の、子どもの読書応援トークイベントは、翻訳家のさくまゆみこさんをお招きしました。さくま先生は、編集者を経て、翻訳家として現在も活躍されています。その翻訳作品は250冊を超えます。今回は特別展〈絵本で知る世界の国々-IFLAからのおくりもの〉にあわせて、世界の子どもの本について深い見識をお持ちのさくま先生にたっぷりお話いただきました。
子どもの本が拓く国際理解の道:イエラ・レップマンの理念
さくま先生が最初に取り上げたのは、ユダヤ系ドイツ人であるイエラ・レップマンが提唱した理念でした。それは、「素晴らしい子どもの本は、人々が相互に理解し合うための架け橋となり、世界中の子どもたちを繋ぐ力を持つ」ということ。ナチスによる迫害を逃れたレップマンは、戦後、荒廃した祖国ドイツに戻り、「ドイツの子どもたちに、新たな出発をさせてあげたい」と訴え、かつての敵国を含む世界各国に手紙を書き、本の寄贈を粘り強く依頼します。その結果、20カ国から4000冊の本が集まり、ドイツ各地で巡回展覧会が開催され、戦争で心を閉ざした子どもたちの心を明るく前向きに変えていきました。この活動は、アストリッド・リンドグレーンやエーリヒ・ケストナーといった作家たちの協力も得て、子どもの本に関わる人々の国際組織IBBY(国際児童図書評議会)とミュンヘン国際子ども図書館の創設へと繋がっていきます。
IBBYは国際アンデルセン賞を創設しています。その国際アンデルセン賞作家賞を受賞したアメリカの児童文学作家キャサリン・パターソンの受賞スピーチを紹介してくださいました。
“アメリカの図書館には自国で出版された本がすでにたくさん並んでいるせいか、外国からの翻訳作品も必要だということを忘れてしまいがちです。でも、私たちはアメリカの子どもたちに、イランや韓国・北朝鮮や南アフリカやセルビアやコロンビアやチリやイラクに暮らす友だちをあたえていかなければなりません。つまりどの国の子どもたちとも仲良くなってもらわなくてはなりません。人は、自分の友だちが暮らしている国に害をあたえようとは思わなくなるからです”
このように、先達の強い想いを通して「子どもの本の力を信じること」の重要性を説いて、本講演会は始まりました。
世界とつながる窓としての絵本
では、“子どもの本の持つ力”とはどんな力なのか、具体的にお話は続きました。「子どもの本は、大人が子どもの周りに作る“窓”であり、それを通して子どもたちは今いる場所とは違う世界を見ることができること。生きづらさを感じる子どもに希望を与え、生き延びる力となることもある」という大きな可能性に満ちたものであると話してくださいました。他にも「翻訳された児童書は、子どもたちが自分とは異なる文化や価値観を持つ人々を理解し、共感するために大切だ」とおっしゃっていたことが印象的でした。そして、「貧困や戦争といった側面だけを切り取った本がもたらす『かわいそうだから助けてあげる』という上から目線は避け、大事なのは、地球に共に生きる対等な仲間として他者を捉える視点を持つことだ」と警鐘を鳴らしてくださいました。
AI時代における読書の意義と翻訳の役割
さらに、AIが普及する現代において、子どもたちが自らの頭で考え、心で感じ、情報の真偽を判断する能力はこれまで以上に重要になっていくことを危惧され、AIが提示する情報を鵜呑みにせず、主体的に思考する力を養う上で、子どもの本は大きな役割を果たすことも話題にされました。
また、「翻訳もAIにより容易にできるが、翻訳は単なる言語の置き換えではなく、その国の文化や背景を伝える重要な行為であり、慎重に行われるべきだ」と話され、翻訳家ならではの視点で、現代の問題にふれてくださいました。
世界各国の絵本に見る多様な文化と社会
世界中の絵本は、それぞれの地域の文化、歴史、社会問題を色濃く反映しているものが多くあります。さくま先生は、事前にリストアップした64タイトルの本について、さまざまな視点で紹介や解説をしてくださいました。伝統的な作画方法や芸術スタイルで描かれた作品、その土地ならではの暮らしや文化を描いた作品もあれば、今日的なテーマや普遍的なテーマを描いている作品もあります。その他にも、作者自身の生い立ち(移民や難民の経験)を描いたもの、困難を乗り越える人々の力強さを描く物語や、その国々の歴史を伝えるものもあります。また、紛争下で生まれた絵本は、戦争の悲劇、文化を守る人々の努力、自由への渇望といった厳しい現実を伝え、子どもたちが世界の状況を理解するきっかけとなるということも示されました。
1冊の絵本において、絵と文がそれぞれ異なる情報を伝えることで、物語に深みを与えたり、多様な背景を持つ人々を通して理想の姿を子どもたちに示したりもするということ。ご講演を聞く中で、そもそも、絵本そのものをどのように読み、どのように向き合うのか。お話を伺いながら、そんな自分自身の視点の持ち方を顧みました。
日本において、あまり出会うことのない社会的な問題も、絵本を通して知ることができます。世界各国の絵本は、様々なアプローチで子ども達に世界へつながる窓を用意しています。それが、世界中の大人からの子どもたちのへの願いであることも強く感じました。私たち図書館員は、子どもたちの知的好奇心を刺激し、多様な文化や価値観への理解を深めるための優れた入り口となる絵本や児童書を届けていかなければならないと襟を正す講演会でした。
講演会で紹介された全ての本は会場に並べて、手にとっていただいけるように準備しました。講演会後には、ご紹介いただいた本の中からそれぞれが気になる本を手にとって読んでくださる方がたくさんいらっしゃいました。また、図書館内で開催している特別展〈絵本で知る世界の国々-IFLAからのおくりもの〉にも足を止め、各国の現地の絵本もご覧になっていました。
ご参加いただいた皆さま、講師のさくまゆみこ先生、ありがとうございました。



